プロジェクト第1弾の期間(2013年1月〜2014年1月)、尾道のカフェやゲストハウス、尾道で有名なドリンクを開発したあの方の尾道デニムを、京都の能楽師にバトンタッチして1年。どんな時間を過ごしたのでしょうか。詳しくはこちら→「伝統と革新」旅するデニム、京都へ
能楽師 観世流シテ方 / 林 宗一郎
プロフィール:1979年、江戸時代(寛永年間)より唯一続く京観世五軒家の家に生まれる。父・十三世林喜右衛門、及び二十六世観世宗家・観世清和に師事。3歳で「鞍馬天狗」初舞台、その後数多くの舞台経験を重ね、24歳で観世宗家に入門。内弟子修行を行う能楽師が減少する中、家元のもとでおよそ8年間に及ぶ修行に励む。2012年には「市川海老蔵 古典への誘い」に出演、能と歌舞伎の共演という初の試みの舞台の京都・名古屋・神戸公演にて出演を果たす。その他にも、他ジャンルとのコラボレーション公演なども積極的に行い、能楽を京都から世界へ発信するべく活動を展開している。
ちょうどお伺いした時期は、足を怪我されており、リハビリ中にも関わらず快く応じてくださいました。
1年間の着用シーンは??
「普段の生活、お稽古時に着用、デニムで正座もしていました(※本来はNGなので、お弟子さんにお断りをした上で)。穿いていく中で、自分の身体に沿って馴染んでいくのが面白かったです。中学、高校の時、デニムを育てることに夢中になっていたころの楽しい思い出を思い出しました。当時は寝る時にも穿いていましたよ。家元の修行のときは、当然TシャツやデニムはNGでした。」
特徴
膝の色落ち。
稽古中に、正座や、※膝行という動作で膝をついたり、稽古中にリズムをとる時に、膝の上で叩いていたのも、アタリとして出ている。※膝行(しっこう /能・狂言の型のひとつ。膝頭を床について前に出たり後ろにさがったりすること)
尾道デニムと、1年限定のお付き合いの中で。
「期間限定のお付き合いだからこそ、時間(四季の移ろい)を感じることができました。なかなか、人も物も期間を決めて付き合うことはないですもんね。人間が生きる日にちは、およそ3万日と言われていて、その中で、1日1日の大切さ、重みを感じることができたし、特に内容の濃い1年をともに過ごしたと思います。四季の移ろいを感じる心が、今の日本には足りないのではないかと感じます。移ろい行くものが世の常と言いますか。諸行無常を基本的に受け入れ、身を委ねることで表情が変わっていくのを楽しみました。」
改めてデニムの良さとは?
「真新しいものも綺麗だけど、使い続けると、色や織りのハリ具合も程良くなってくる。世界的に見て、ヨレっとなったものが良いとするものはあまりない。味が出て、深みが出て、輝きを放っていきますよね。デニムはそれが良いですね。能衣装も共通するところがあります。それに、物、人の命は運命を背負って生きていて、真っ当しないといけない人生があると思っています。」
能面の表情
実際に舞台で使っている能面を、特別に拝見させていただきました。こんなに近くで観ることは初めて。その迫力といったら凄いです。これも、使い込み、お客様の目に触れられたり、表に出てくると表情が輝いてくるんだそう。一方で、一度も表舞台に出てこないと、表情は固いままでというから不思議。
般若は、嫉妬や怒りによって、鬼になってしまった女の役の時に用いられ、怒りと悲しみを表すものだそう。3歳の子供がこの能面を見て、「泣いているね」と言ったそう。怒りの部分だけが見てとれるのですが、表面的な表情だけではない感情が、子供には伝わるんですね。深い。
次の穿き手へのメッセージをどうぞ!
「どんなものも、色んな人の思いを繋いで今に残ってきている。これは奇跡だと思います。このデニムも、200~300年と残る可能性だってあるし、そうあってほしいと思っています。作品には人が出てくるので、心を込めて表現していける人に繋いでいってくれたら嬉しいです。」
でも、一言で言うなれば、「がんばれよ。いい人に巡り会えよ。そして…幸せにしてやってください!」でしょうか。
宗一郎さんが育ててくださった尾道デニムは、ONOMICHI DENIM SHOPで販売することが決定!片足を通したら、能を舞いたくなるかも!お楽しみに。宗一郎さんが舞台で能を舞う姿も、観に行ってみたいですね。
〈MODEL : Soichiro Hayashi / 公式HP:http://hayashi-soichiro.jp 〉
〈PHOTO : Mitsuyuki Nakajima / 公式HP:http://nakajimamitsuyuki.jp