「旅に出る若い子たちが減った」
旅先でそのことを耳にしたのは、たしか3〜4年前の当時26歳だった頃。わたしの周りには、旅に限らず興味を持ったら先ず自分の目で確かめるという友人が多かっただけに、世間で言われている若者の傾向について言われているその噂は信じ難かった。どういう傾向かと言うと、いわゆる大学3年生になったら安定という名の安心感を求めて就職活動をし、頭で人生を決めていく…という人が増えているということ。人の価値観は時代とともに変化するのかもしれないが、「心からワクワクすることに出会ってるのか」とか、「これから先どんなことに興味を持ち、更には希望を持って生きていくのか」などと、お節介ながら私はそんなことを思い、日本の行く末がちょっぴり心配になったことを憶えている。
北タイやインド北西で働いていた時間、鮮やかで真ん丸で大きな夕日が落ちて行く風景を大切な人に見せたいと想った。私にとっては、生きててよかったと心から思えるくらい素晴らしい光景だったから、当然みんなにも見てほしい、この町に来てほしいと思った。しかし、簡単に海外へ、更にはアクセスも良くない場所へ思い立って行ける人ばかりでも無いのは分かっていた。仕事もあれば守るものもある。当時から、人がわざわざ動くきっかけについても良く考えていた。
こんな歯がゆい経験も交え、私なりに何が出来るか考えた結果、導き出した1つの答え。
それは、「海外へ興味を持つ日本人が減ったのであれば、日本へ来る外国人との接点を持てば良い」ということ。そこで出会った国籍のちがう相手とのコミュニケーションをきっかけに、背景の国や文化に興味を持ち、やがていつか相手の暮らす場所を訪れることに繋がっていく…なんて素敵な縁の温め方。これであれば、旅は目的ではなく、必然的に人に会いに行く手段になると思った。
「ゲストハウスが持つ可能性」
その1つのきっかけづくりとして、私が興味を持ったのはゲストハウス。人との交流で違った文化に触れ、次に進むべき道が幾らでも変わっていく可能性を秘めている場所だ。日本に居ながら異文化交流が出来る場所でもある。縁合って代表の小澤さんに出会ってから3分で採用していただき、(3ヶ月間だけでしたが)働かせてもらったのがカオサンゲストハウスだった。旅人たちのコミュニケーション能力、直感力、情報の発信や情報の摑み取り方、加えて偶然を愉しんでしまう心構えは逞しく写り、とても興味深かった。旅先の思い出をワクワク話してくれるのを聞くと、実際に自分も旅に出たくなったことも沢山あった。
面白いものは面白いと認める感覚。当然、お互いの違いも認める。だから、有効で活きた情報が伝播していく。尾道の町や人の面白さの発信、日本のものづくりの価値の発信と、2つの要素が含まれている尾道デニムプロジェクトを、何かをきっかけで知った人が尾道に興味を持ち、旅先の1つに尾道を加え実際に訪れてみてほしいということ。旅人たちの発信力に“尾道デニム”も懸けてみようと思ったのは、今思い返すと必然だったように思える。
「ONOMICHI DENIM CARAVAN in TOKYO」
10月28日(火)〜10月31日(金)と4日間、浅草寺裏で展開した出張デニム屋さん。ファッション好きが集まる原宿等も候補地にあったが、最終的に選んだのは浅草でした。日本に訪れる外国人に尾道を知ってもらいたいということが、シンプルな目的です。また、訪れる外国の方が興味を持つ「日本人の暮らし」。その上で、日本人の日常が詰まっている尾道デニムは、町や人、流れる空気に興味を持ってもらえる最強のツールだと思っています。とはいえ、そんなにすぐに手が届く金額でも無いことも分かっているので、まずはお披露目ということで、デニムを見てもらったり、ステッカーを配ったり、和英表記のビジュアルブックをプレゼントしたりと地道な啓蒙活動からスタートです。ステッカーはパソコンに貼ってくれたり、ノートに貼ってくれたりと好評。みんなサービス精神旺盛で、写真撮影も和やかに承諾してくれました。
「旅するデニム」
今回は、初日のイベントとして“尾道デニム×旅”をテーマに、参加者巻き込み型の公開企画会議を開催。今後のプロジェクトの企画に活かされるアイデアを皆様から頂いたりプロジェクトの本質を見つめ直してみたりと、有意義なディスカッションタイムとなりました。
どんな構想かと言うと…
PHASE 1は「働くデニム」をテーマに、職業別のオンリー1デニムを創作。次は「旅するデニム」をテーマに、オンリー1のデニムを創作。
具体的には旅人が物語の描き手になり、尾道デニムが共に世界1周をしていく。旅するデニムが旅先で出会った人にバトンタッチされ、また別の物語がデニムに刻まれていく…という、まさにプロジェクトの大テーマにもなっている「デニムでつなぐ物語」を具現化していけたら、なんて素敵だろうという勝手な妄想です。働くことであっても旅することであっても、尾道デニムの主人公は穿き手の人々であることは変わりません。このデニムは、人々の日々の営みを確かに刻み込んでいくものであり、その思いを汲んだ別の誰かの手によって受け継いでいかれるデニムであってほしいと願っています。1本1本、尾道デニムが国内外誰の手に渡っていくか誰にもわかりませんが、今後も多種多様な文化が交流するきっかけになっていく本物のデニムになるはずと信じ、「旅するデニム」企画はスタートに向けて絶賛試行錯誤中です。お愉しみに。
「尾道から世界へ」
尾道デニムは、今を生きる人と、これからを生きていく人との歴史を共に刻み込んでいくものです。「世界」とは、ただ海の向こうの世界を指すわけではなく、ある体験によって“視野がひろがった”“世界観が変わった”これも、世界を指します。
このご時世、本当に大切なものを一生懸命見つけようとしている人も多いかと思います。だからこそ、このプロジェクトは、日本の価値ある伝統産業のように継承の危機にさらされてしまう前に、国内外問わずデニムを穿く事で体験を共有し、時間をかけて本当に良い物の価値を実感していき、愉しんでいたらいつの間にか広まっていた…そんな取り組みにしていけたらと思っています。
また、スタッフの濱野がプロジェクトが取り上げられたNHK全国放送で心動かされ、尾道デニムと出逢い、現在スタッフとして尾道で働き暮らしているように、この尾道デニムとの出逢いが人生の1ページに加えたい価値あるものになったら嬉しいです。
尾道デニムキャラバン、来月には京都へ伺います。こんな想いも、顔を合わせて皆様にお伝え出来たらと思っています。いつか、尾道デニムを引っさげてキャラバン隊が海外へ行くことになったら、それこそ「旅するデニム」ですね。